新宮市在住の久保様より、エッセイとイラストを頂きました。

蒲団
「それそれ、もっときつうに持って」とめずらしく母が大きな声で注意した。濡れた蒲団の側は重い。丸めた片方を母が、もう一方をわたしの両手が必死で握りしめた。「ひい、ふうの、みい!」のかけ声でこぼれ落ちた水玉は、白くふやけた足もとをくすぐる。
田舎の夏は蒲団の作り替えで忙しかった。洗濯機の便利さや、真っ白いシーツをかける豊かさはなかったが、母と一緒に洗濯物を踏む足に川はやさしかった。「パン、パン」と母は慣れた手つきで布地を叩き、そっと川原に広げる。要所を押さえる大きめの石をさがすにはわたしの役目だった。
夕方の取り入れがまた楽しかった。糊でくっついた石ころを「バリバリッ」と剥がすと、小石の形そのままの凹み模様がついていた。
母は夜なべに蒲団を仕上げた。それは、真夏の陽の匂いと糊の香ばしさで子どもたちを包み、心地よい眠りに誘ってくれた。
水浴びで冷えた体を暖めながらメダカを追いかけたあの川は、どこへいってしまったのだろう。いつの間にか雑草が川原を被ってしまった。
母と過ごした年月ももう戻らない。この冬、母の二十三回忌の法要をする。
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